河川事業は海をどう変えたか

河川事業は海をどう変えたか

宇野木 早苗:著

A5判/120ページ/定価 本体1,600円+税
ISBN4-915342-45-X

<推薦のことば>西條八束(名古屋大学名誉教授)
河川の研究は,治水,水資源,発電用水などの立場から活発に行われてきた。しかし,それらの研究では,河川が流入している海への影響はほとんど考慮されな かった。河川上流の魚付き林の漁業への重要性は,研究者・漁民によって認識されるようになったが,ダムや堰が造られた場合に海にどんな影響を与えるか,特 に沿岸域における流れや水の交換,侵食・堆積作用などへの影響は重大と思われるのに,研究はほとんどなかった。
宇野木早苗氏は大著「沿岸の海洋物理学」を刊行された沿岸海洋物理学の第一人者であるが,近年,海岸線の後退,赤潮の発生や貧酸素化の増大,それに伴う水 産資源の著しい減少など,沿岸域の環境の急速な悪化に注目し,ダム・堰などが沿岸域に与える影響の研究を精力的に続けられている。それらの影響を漁民は経 験的には気付いていたが,そのメカニズムは解析されていなかった。この問題に関し,宇野木氏が近年多数の論文や報告書として発表された成果を,きわめて理 解しやすく,まとめて下さったのがこの本である。河川や沿岸域の調査研究に関わる方には必読のものであり,また,その環境問題に関心のある方も是非お読み 頂きたい。この方面の基礎的知識がなくても十分理解できるであろう。
●目次●
まえがき
1章:海の環境を悪化させた河川事業
・川と人のかかわり
・不知火海の場合ー漁師たちの証言
・有明海の場合
・アスワンハイダムの場合
2章:海への影響を考えなかった河川行政
・海への影響の把握が困難な理由
・これまでの河川行政と海
・高潮と洪水流の衝突を考慮しない設計方法
・川と海は水系一体
・河川事業の評価,その利益と損失
3章:川が養う海岸と海の流れ
・海岸を養う河川
・河川水が生み出す海の強い流れ
・河川と沿岸の流れの形態
・中国大陸から流出した河川水のゆくえ
4章:川が養う海水と生命
・河川の影響が大きい海の構造
・川と海が接触する海域における生態系の特徴
・川からの流入物質と沿岸環境
・川と海を回遊する魚
5章:最も汚濁した三河湾と豊川からの取水の関係
・三河湾の環境はなぜかくも悪化したか
・豊川用水の功罪
・瀕死の三河湾を鞭打つ設楽ダムと大島ダム
・ダムが海域に与える影響についての河川当局の対応
6章:河口堰が川と海に与える影響
・川と海の連絡を断ち切る河口堰
・地道なデータの積み重ねがあってこそ
・河口堰の上流も下流も底層の酸素は確実に減少した
・河口堰は川を湖に変えて環境を悪くした
・とくに激しい河口堰下流の汚濁の進行
・河口堰が海に与える影響は理解不足
7章:諫早湾の長大河口堰は有明海をどう変えたか
・潮受堤防は長大河口堰である
・弱くなった有明海の潮汐
・潮流の減少と密度成層の強化
・長大河口堰は巨大な汚濁負荷生産システム
・長大河口堰前面の底層における汚濁の進行
・諫早湾干拓事業の影響に関する農水省の対応
8章:川からの砂の供給が激減した海岸の惨状
・海岸侵食はなぜ起きるか
・名勝羽衣の松が危ない
・海岸の侵食を止めるには
・河川から流出する砂の量
・海岸侵食は森林破壊によっても起きている
9章:漁場を壊滅させた黒部川出し平ダムの排砂
・汚濁源となるダム湖
・出し平ダムからの汚濁土砂の排出
・沿岸漁業は壊滅的打撃を受けた
・それでも次々に排砂が実施される不思議さ
・影響は無視できるとした結論は正しいか
10章:球磨川のダム建設後の八代海
・ダムの堆砂による流出砂の激減
・ダム湖起源の膨大な汚濁負荷
・衰退する漁業と球磨川の水のゆくえ
・漁獲の減少が激しい海域は負荷が最も少ない
・ダムに砂がたまるほど漁獲量は減少している
・ついに廃止に追い込まれた荒瀬ダム
11章:川辺川ダムは八代海にどう影響するか
・信頼しがたい海への影響予測
・ダム湖の水質予測も再現不良
・想像を絶するダム湖の堆砂量
・ダムが八代海に与える影響は重大
むすび
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